『べっぴんさん』から手芸を研究してみる(1)
お話は昭和9年、神戸で暮らす主人公坂東すみれが9歳の時から始まる。
ある朝。
「似合う?この前お父様が仕立ててくださったお洋服。」
といって姉ゆりが父に見せるのは、ピンクのワンピース。白い襟には小花の刺繍が施されレースで縁取られており、胸にはピンタック、その周囲には共布のフリル。
「特別に元町の店に、イギリスの生地を持ち込んで作らせたんや。」と自慢げな父。
おっとりしたすみれが着ているのはゆりとおそろいで色違いの若草色のワンピースである。気に入ったか?と父に聞かれて
「なんかな…。」と襟を触りながら言葉を止める。
当然父は「なんや!気に入らんかいなー!特別に作らせたべっぴんやのにー!」と大きな声をあげる。と、「べっぴん」とは「特別に作ったもの」であることがとても説明的に意味付けられている。
神戸港を見下ろす山の手で暮らす少女たち。
彼女たちの服は、刺繍、レース、ピンタック、フリル、リボン…という当時とても贅沢で普段着にはなかなか使えなかった手芸が満載。その服で朝ごはんも学校へも行く。
学校の授業中、入院している母のところへ行くことを妄想中、すみれは机の下で四葉のクローバーが刺繍されたハンカチを触っていた。母親が刺繍したハンカチだろう。
帰宅したすみれは母の裁縫箱を取り出して、刺繍する母の姿を想う。色とりどりの刺繍糸が入っている。すみれは拙い手で夜中まで刺繍をする。白いハンカチに白い百合と紫のすみれが刺繍される。母のところに持っていったら、姉と父に「なんやこれ」と言われ、母親だけが彼女の刺繍をわかってくれる。
手芸って、下手でも心がこもっているという言説と、下手な手芸は一銭にもならん…って言説が両立していて、実はかなり手芸の本質を突いているなあと思ったりするのであった。