糸・布・針を読む

自分は縫わないけど、縫ったり織ったりすることを考える・・・読書や調査の記録(基本は自分の勉強メモ)

アイヌ文様は実体ではない・・・という論

大正15年に出版された『アイヌ文様』という本がある。編者は杉山寿栄男。1974年に北海道出版企画センターから復刻されている。

アイヌ文様 (1974年)

アイヌ文様 (1974年)

冒頭には次のように書かれている。

「予は元来、原始文様の動機を実体のみに求めんとする事に疑念を有し、寧ろ、文様の線の移動は純真なる芸術本能の表現なりと信ずるものであり。」

「従来の欧米研究家が、文様の動機を、強いて実体にのみ求め、毫も人類の本能の表現に求めざるの結果、往々にして恐るべき独断に陥り・・・」

「一般の研究家が、文様を意志思想の記録と信ずる事の浅き結果、文様より民族なる実体に触れんとするの念甚だ乏しき・・・」

 

面白いと思うのは、少なくともこの本が書かれた大正15年には、文様は何かしら実体のようなものであるという理解が、欧米をはじめとする研究者たちに信じられていたという主張である。それが確かなことかどうか、この本だけではわからないのだが、杉山自身はそのように主張しているのだ。

で、杉山は「文様は実体ではなく思想である」と言っている。だから、「芸術本能の表現」として認識して、文様そのものを研究するのではなく、民族そのものを研究せよということだろう。