糸・布・針を読む

自分は縫わないけど、縫ったり織ったりすることを考える・・・読書や調査の記録(基本は自分の勉強メモ)

「その裁縫の針は奴隷主たちの良心をちくりと突き刺すだろう」

すっかりこのブログからご無沙汰していたのは、私の仕事の仕方が集中的に読書をする時期とフィールドに出る時期があって、ここしばらく読書する余裕がなかったため。久々にこちらを更新。

さて、タイトルにある「その裁縫の針は奴隷主たちの良心をちくりと突き刺すだろう」とは、イギリスの社会活動家であるセアラ・グリムケの言葉である。

Women, Art and Society

Women, Art and Society

 

19世紀後半、イギリスではデザイン改革運動の信条が定着する中で、装飾芸術の地位が向上した。それと相まって伝統的に女性の領域と考えられてきた家庭空間内で、意匠を凝らした装飾をすることへの関心が高まったとされる。装飾芸術はまた、人々を精神的に鼓舞し、社会的・倫理的な改善をもたらす手段としても注目された。

「装飾の役割は女性にふさわしい分野とされていたため、女性たちが伝統的に得意としてきたジャンルの美術を、さらに推し進めることとなった。」

エリカ・E・ハーシュラー「アートに生きた女たち」『アートに生きた女たち』図録、2013年、名古屋ボストン美術館

 

タイトルの言葉は、奴隷廃止運動を支えるために販売用の手工品を制作するように女性たちを鼓舞したのだという。

女性が制作した手芸品は、かつて無価値で安価なものとされてきたが、手芸品の価値が高まることによって女性たちの手芸品制作が経済的価値を生むようになっていった。そして、イギリスでは奴隷廃止運動の経済的根拠となっていった。