糸・布・針を読む

自分は縫わないけど、縫ったり織ったりすることを考える・・・読書や調査の記録(基本は自分の勉強メモ)

2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

手芸か、美術か

アップリケは「美術」なのか「手芸」なのか・・・と考えても仕方がないことだと思いつつも、日本の美術の歴史を見る限り、この問題は実はとても根っこが深い問題なので、考えないわけにもいかない。きっと制作者たちはどうでもいいと思っているのだろうが。 …

アップリケの定義

宮脇綾子のことを考えつつ、アップリケの定義と歴史。 川辺雅美さんは次のように書いている。 「もともとアプリケはフランス語で、貼る、縫い付けるという意味があり、アプリケワーク、アプリケエンブロイダリーともいう。地布の上に別布や皮革・レースなど…

宮脇綾子という人について

宮脇綾子は1905(明治38)年に東京田端に生まれた。実家は会社を経営し裕福な生活を送っていたが、尋常小学校を終えた頃、事業に失敗し、家族は離散状態になったという。 母親は小さい妹と弟を連れて実家・花巻に帰り、宮脇綾子は母親代わりに家事を一手に引…

宮脇綾子のアプリケと『あまから手帖』

アップリケの作家として知られる宮脇綾子。彼女の作品を全国区にしたメディアの一つに『あまから手帖』がある。素朴な和布を用いながら、大胆な構図で描いた作品は、長年にわたってこの雑誌の表紙を飾ってきた。 『あまから手帖』の創刊(84年11月)から100…

『文化服装講座 手芸編』 総論 その2

山脇敏子の『文化服装講座 手芸編』の総論の続き。 戦争直後の語りであるという前提で読まねばならないが、服飾史の流れの追い方も興味深いものがある。 「従来の封建時代にあっては、美しい絵画や彫刻、織物などはすべて貴族という特権階級の人のみが玩味し…

『文化服装講座 手芸編』 総論 その1

著者である山脇敏子は総論として「手芸及び服飾手芸について」という文章を書いている。基本的には手芸の歴史を述べようとしているのだけれど、これはちょっと・・・と今の感覚では書けないようなテクストになっている。戦前の女性インテリって・・・。 なぜ…

ウェディングドレスも仕立てた時代

山脇敏子『文化服装講座 手芸編』から。 数枚カラーの口絵が付されているのだが、私の「昭和26年認識」とだいぶイメージが違うので驚いてしまった。 左から、厚地サテン、胸から腰にかけてキルティングしたツーピースドレス。 ヒモレースのブラウス。 プレー…

手芸の定義(山脇敏子の場合)

「手芸」といっても時代や文化によっていろいろ定義も内容も異なるのだが、『文化服装講座 手芸編』(昭和26年)の中で、山脇敏子は次のように書いている。 「私は糸と針をもって作るすべての手法を、ぜんぶひっくるめて手芸といいたいのです。もっとひろげ…

山脇敏子という人

『文化服装講座 手芸編』を書いた山脇敏子という女性。概論の書きっぷりがなかなか怖いので、ちょっと調べてみたのだが、大変面白い経歴。 1887年生まれ、肩書きは洋画家・服飾手芸家、研究家、教育者。 「山脇美術専門学院」を創設した、日本の服飾界の先駆…

文化服装講座 手芸編

昭和26年に出版された『文化服装講座 手芸編』。著者は山脇敏子。 講座シリーズ本の仲の一冊で、「我国第一の洋裁研究書」をうたっていた。ちなみに「婦人服前編」「婦人服後編」「子供服編」「男子服編」に続いて出版されたのこの「手芸編」である。 戦後6…

『繕い裁つ人』

池辺葵の『繕い裁つ人』。今のところ3巻まで刊行。 繕い裁つ人(1) (KCデラックス)作者: 池辺葵出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/03/11メディア: コミック購入: 7人 クリック: 113回この商品を含むブログ (33件) を見る このマンガ、裁縫好きな人は絶対…

『乙嫁語り』

森薫の作品はどれも好きで、特に衣服や背景描写に惹かれてしまうのだけど、『乙嫁語り』は、これまたスゴイ・・・と感心している。 乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)作者: 森薫出版社/メーカー: エンターブレイン発売日: 2009/10/15メディア: コミック購入: 58人 …

『双子座の女』

最近大人気の漫画家・西炯子。他の作品が割と好きなので、読んでいくうちに見つけたのがこの作品「双子座の女」。 双子座の女―Stayリバース (フラワーコミックス)作者: 西炯子出版社/メーカー: 小学館発売日: 2004/06/25メディア: コミック購入: 7人 クリッ…

『リネンとガーゼ』

たまには違う話題など・・・でも手仕事関係。 あいざわ遥の『リネンとガーゼ』(全4巻)は、まさに針仕事をテーマにした少女マンガ。 主人公のクラフト作家・川乃(かわの)と姪っ子のここみちゃんが中心に描かれている。クラフト作家といっても、もっぱら…

女はどこでも針仕事ができる

北海道立近代美術館の『アイヌ・アート―風のかたりべ』展の図録で、担当学芸員の五十嵐聡美さんがアイヌの女性たちの針仕事について書いていて大変興味深い。 アイヌの女性たちは「チシポ」(本当はシが小さい文字)と呼ばれる針入れを胸元に下げていて、「…

平澤屏山筆「アイヌ手芸の図」

平澤屏山(ひらさわ びょうざん・1822年~1876年)は、アイヌの人々と生活を共にしながら、アイヌ絵を描いていたとされる幕末の絵師である。 「アイヌ手芸の図」は実見したことがないのだが、金田一京助の『アイヌ芸術<服装編>』にモノクロ図版が掲載され…

本の装丁

アイヌの人々の手仕事のことを調べていて気になることが一つ。 たまたま私の手元にあるものだけがそうなのかもしれないし、もしかすると復刻がそうなのかもしれないけれど、本の装丁がまるでアッツシを用いているかのような麻の布張りなのだ。 これってアイ…

アイヌの工芸美術への金田一の語り

『アイヌ芸術 第一巻、服装篇』(金田一京助、杉山寿栄男、昭和16年)は、アイヌの人々の服飾文化を焦点化しているので、文様や刺繍など気になることが山ほど書かれている本である。1973年に復刻されている。 アイヌ芸術〈服装編〉 (1973年)作者: 金田一京助…

刺繍の技法

先日、北海道立近代美術館で「アイヌ・アート―風のかたりべ」展を拝見した。食い入るように刺繍を見てきたのだが、単眼鏡を忘れたためさすがに針目まで見るのは難しかった・・・自業自得。 さて、以前から気になっていたのだが、アイヌ刺繍はどうやら基本は…

民俗学者の田中忠三郎氏死去

先日、青森の国際芸術センターでたくさんのこぎんを拝見したばかりだが、青森の民俗資料を収集し続け、今に貴重なコレクションを残してきた田中忠三郎氏の訃報が報じられた。とても残念である。 非常にいい状態で大切に残された布たちは「ボロ」(BORO)とい…

アイヌ文様は実体ではない・・・という論

大正15年に出版された『アイヌ文様』という本がある。編者は杉山寿栄男。1974年に北海道出版企画センターから復刻されている。 アイヌ文様 (1974年)作者: 杉山寿栄男出版社/メーカー: 北海道出版企画センター発売日: 1974メディア: ?この商品を含むブログを…

アイヌの衣服―衿

アイヌの人々の皮衣には衿のないものもあるので、アッツシが衣服の主流になってから衿ができたものではないかと岡村吉右衛門は書いている。 アッツシに和服仕立が導入されると共に、衿の部分が加えられたとの推定らしい。 衿は「イリ」とか「エリ」と呼ばれ…

シヌタップカ媛の針仕事

『神謡』に出てくるシヌタップカ媛の自叙の部分らしいが、私は原典には当たっていないけれど、気になるのでメモ。 『シヌタップカ(の山城)に、わが養姉われを育つるに、 その心を砕き労しつつ、われを斎き育て、侍づき 育てくれつつありたりけるが、今は(…

石井香久子 個展 Japanese paper strings -tsunagu-

水引を使うアーティスト。 「作品を制作するにあたり、素材にはできるだけ作為的な手を加えず、素材の持つ質感を大切にし、その結果あらわれる視覚的ニュアンスを味わうことを基本姿勢としています。近年は水引を素材として、ただ単純に結ぶという作業の繰り…

弥永保子 個展 南の島から

京都のギャラリーギャラリーで開催されるとのこと。 「太陽の光と珊瑚によって作られた海の輝きの変化。刻々と変わる空に浮かぶ雲の塊の色や形の変化。そんな無限の色や姿を見せる自然は私に情熱やエネルギーを与えてくれ続けています。今回も絞りという技法…

衣服の仕立て

秦檍丸の『蝦夷生計図説』には、アイヌの人々の衣服の縫い方が紹介されている。 「縫い方」はアットゥシウカウカというそうだが、アットゥシ=「縫う」で、ウカウカ=「縫うこと」の意味になるらしいので、ひたすら縫うイメージなのか? まず衣服の丈を決め…

野田凉美 アミシャツ展

テキスタイルアーティストの野田凉美さんの個展のお知らせをいただきました。 いつも素敵・・・。 2013年3月12日(火)~23日(土) 11:30-18:30 日曜、月曜、祝日は休み DOJIMA RHIZOME (大阪市北区堂島3-2-19)

衣文化と女性性

岡野吉右衛門『アイヌの衣文化』では、アイヌの人々の衣文化が女性性と深く結び付けられていることが指摘されていて興味深い。といっても、岡野自身がそう言ってるわけではなく、おそらく無意識に衣文化と女性が結びついている前提があるのだと思う。 それが…

アイヌの女性と針

アイヌの人々の中で、針は「守神であるセルマッカ(憑神)であることから、金属製の針には刃物と同じく呪力があると信じられていた」とされる。極めて厳重な所有権があり、みだりに他人の針に触れることはできなかったようだ。 岡村吉右衛門『アイヌの衣文化…

アイヌ文様の伝播

斎藤祥子『北海道の洋服化への道―函館を中心に』(p.49~「アイヌの人たちの影響」) 「明治時代から大正時代にかけて、ニシン場ではアイヌの人たちとも一緒に仕事をしていることから、ニシン場に出かけている人は被服の上でも影響を受けている。」 「アイヌ…