糸・布・針を読む

自分は縫わないけど、縫ったり織ったりすることを考える・・・読書や調査の記録(基本は自分の勉強メモ)

文化服装講座 手芸編

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昭和26年に出版された『文化服装講座 手芸編』。著者は山脇敏子。

講座シリーズ本の仲の一冊で、「我国第一の洋裁研究書」をうたっていた。ちなみに「婦人服前編」「婦人服後編」「子供服編」「男子服編」に続いて出版されたのこの「手芸編」である。

 

戦後6年、洋裁の需要が高まる中でどの程度「手芸」的な手仕事が求められていたのかわからないが、挿図を見る限りかなり手の込んだ刺繍などを紹介している。

「著者のことば」では次のように書かれている。

「二十世紀の文明は、機械力の発達によって総べてのものが合理的に企業化され、スピード化されて、生活様式の上にも、亦衣服の上にも、機能的な進歩を来たしました。こうした時代にあってもなお手芸が、昔変らぬ魅力をもって珍重されているのはなぜでしょうか。」

「手芸とは、糸と針によって、日々の生活を明るく、新しく、そして豊かなものにしてくれるもの」

「手芸といえば、何か贅沢なものという考えをもった時代もありましたが、それは高価な材料を使ったり、特別に長い時間をかけたりするからで、身の廻りにある材料を何でも生かして使い、簡単な手法で、楽しみながら作るところに、私達の生活に即した手芸品が生まれてくるのです。」

 

なるほど、なるほど。手芸が美的で贅沢なモノであり行為であった時代から、少しずつ戦後ヴァージョンに移行しているのがわかる。簡易な技法、身近な材料、短時間というお手軽な手芸の提唱は、山脇敏子といえども時代の流れに逆らえなかった様子が読み取れる。

また同時に、大きく変化した女性たちの暮らしにも適応した手芸の在り方だったようだ。

 

そうは言っても、今の目線で見るとちっとも簡易ではない。既製品がまだ高価な時代である。また女性たちの手仕事の技能は信じられないほど高かった時代でもある。

戦争が終わり、人々が美しいモノを作ることにどれほど憧れたのか、この本は見せてくれる。