糸・布・針を読む

自分は縫わないけど、縫ったり織ったりすることを考える・・・読書や調査の記録(基本は自分の勉強メモ)

『袋物細工の枝折』

明治42年に共立女子職業学校で編纂された袋物細工の教科書。(教科書として使用されたかどうかは微妙で一般向けと考えた方が良さそう)

この時期の共立女子職業学校の副校長は宮川保全(みやかわやすのり)で、鳩山春子らと共にこの学校を設立した一人。彼が序を書いている。

本を執筆したのは共立女子職業学校で教えていた山田きよ子と種村なか子。裁縫や袋物を教えられない宮川が序言を(とても偉そうに)書いて、実際の執筆者は女性たち。いやはや、教えられない人は一体何をのたまうのか・・・。

山田きよ子・種村なか子『袋物細工の枝折』大倉書店、明治42年

袋物細工の枝折

袋物細工の枝折

さて、宮川の序言。

「手芸の一分科たる袋物細工は、女子の手芸として、最高雅優美にして、又、甚切要の者たるに拘らず、我校以外に、之を教ふるもの稀なるが故に、之を学ばんとする者は、其師を得るに困難せざるを得ず、これ、其独習書の切に要求せらるる所以なり、此要求に応じて、一二の著書の出でざるに非ず、而かも其書は概して教授の経験なき者の筆に成りて、説くところ其要を得ず・・・・」(p.1)

確かに裁縫・袋物を教えた経験のない人がテキストを書くのはなかなか疑問である。が、おそらく裁縫をすることはなかったであろう男性教育者エリートの宮川には言われたくなかろう・・・。

その後はお決まりの「天覧」自慢である。

「其指導に成れる生徒の製作品は、辱くも幾度か天覧の栄を荷へり、両女史は、我校教授の余暇に、各所より袋物教授を切望せられ、・・・」(p.2)

宮川に限らず、「天覧」は当時の文脈ではかなり名誉なことで、生徒の作品が評価されたことが、やはり教育者としての価値を高めていたことがわかる。まあ、論理は今も同じであろう。

 

この本、内容としては用具の説明から始まり(これがものすごく丁寧なので、もし昔の手芸道具の名前がわからないことがあったら、この本で確認するといいと思う)、材料の説明や細工の部分の説明、制作方法、そして最後に型紙付きである。

ここで説明されているモノを作ろうと思えば、おそらく今でも再現可能だろう。

 

「独習」は、つまりは通信教育のようなものなので、当時は遠隔地に住む人や学校に通えない人にとって意味があったのであろう。しかし、今になって見てみると、当時の技術や技法をかなり正確に、今に伝える資料でもある。まるでタイムスリップしているかのように、一冊の本が先生になってくれるわけだ・・・。