アイヌの女性と針
アイヌの人々の中で、針は「守神であるセルマッカ(憑神)であることから、金属製の針には刃物と同じく呪力があると信じられていた」とされる。極めて厳重な所有権があり、みだりに他人の針に触れることはできなかったようだ。
岡村吉右衛門『アイヌの衣文化』(衣生活研究会、1979年)のよれば、「クコルケム(=私の持っている針)」という言い方があり、「コル」は持ち続けているという持続形の動詞であり、また「持ち続けている」ということは「守っている」ことと同意義になるのだという。ちなみに「ケム」が針を意味する。
- 作者: 岡村吉右衛門
- 出版社/メーカー: 衣生活研究会
- 発売日: 1979/01
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アイヌの人々は金属文化を持たなかったので、金属針は山丹、和人との交易で入手するしかなかった。
真澄の紀行文「えぞのてぶり」には、一宿の礼として色糸と針を与えたら女たちは声をあげて喜んだと記される。
- 作者: 菅江真澄,内田武志,宮本常一
- 出版社/メーカー: 未来社
- 発売日: 1971/11
- メディア: 単行本
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アイヌの人々にとって金属針の持つ意味は大きい。それゆえに多様な針のメタファーが生み出されたのだと思う。針の扱いを女性たちの美意識に関わらせたものも少なくないようだ。
また、貴重な金属針には男神が女の守神である「針の神」として描かれたりもしたという。
女性にとって針は大事。
女の守神は「針の神」。
「針の神」は男神。
この論法はなかなかすごいと思う。