糸・布・針を読む

自分は縫わないけど、縫ったり織ったりすることを考える・・・読書や調査の記録(基本は自分の勉強メモ)

アイヌの女性と針

アイヌの人々の中で、針は「守神であるセルマッカ(憑神)であることから、金属製の針には刃物と同じく呪力があると信じられていた」とされる。極めて厳重な所有権があり、みだりに他人の針に触れることはできなかったようだ。

 

岡村吉右衛門アイヌの衣文化』(衣生活研究会、1979年)のよれば、「クコルケム(=私の持っている針)」という言い方があり、「コル」は持ち続けているという持続形の動詞であり、また「持ち続けている」ということは「守っている」ことと同意義になるのだという。ちなみに「ケム」が針を意味する。

アイヌの衣文化 (1979年)

アイヌの衣文化 (1979年)

アイヌの人々は金属文化を持たなかったので、金属針は山丹、和人との交易で入手するしかなかった。

 

真澄の紀行文「えぞのてぶり」には、一宿の礼として色糸と針を与えたら女たちは声をあげて喜んだと記される。

菅江真澄全集 第2巻 日記 2

菅江真澄全集 第2巻 日記 2

 

アイヌの人々にとって金属針の持つ意味は大きい。それゆえに多様な針のメタファーが生み出されたのだと思う。針の扱いを女性たちの美意識に関わらせたものも少なくないようだ。

また、貴重な金属針には男神が女の守神である「針の神」として描かれたりもしたという。

女性にとって針は大事。

女の守神は「針の神」。

「針の神」は男神。

この論法はなかなかすごいと思う。